【就業規則】厚生労働省テンプレートを解説。中小企業が注意すべきポイント11選。
はじめに
就業規則で、よく参考されるのが厚生労働省のテンプレート。
しかし、これをどう使ってよいのか、分からない方も多いのではないでしょうか?
就業規則は、裁判にも使用される公的な文書ですので、そのまま使用せず、自社に合わせることが重要です。特に、初めて作成する会社は要注意。
安易に変更できないため、将来を見越して作成するようにしましょう。
今回は厚生労働省のテンプレートから『中小企業が知るべきポイント』を11個厳選して解説します。
もしこの記事に関連したご質問や、ご不明点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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この記事の執筆者
古賀 泰成(こが たいせい)
こが社労士パートナーズ
代表社会保険労務士
法政大学 経営学部卒業。
自動車メーカーにて海外拠点での営業・物流管理に7年従事。
その間に社労士資格を取得し、父の社労士事務所に勤めた後に開業。
労務×採用で、小規模事業~中小企業まで支援実績あり。
就業規則とは
就業規則とは、従業員との約束を規定した文書です。勤務時間や賃金、休暇、そして懲戒処分など、働く上で守るべき基本的なルールが明記されています。自社に合った規定でないと、労働者との間でトラブルが発生する可能性が高くなります。法律上は、以下のような決まりがあります。
- 従業員が10人以上の事業所は、作成義務がある
労働基準法で定められています。この違反には30万円の罰金が科されます。
また労働基準監督署の調査でも、確認されるおなじみの文書になります。 - 就業規則は、個々の雇用契約の最低ラインになる
労働契約法で定められています。会社と従業員の雇用契約は、就業規則よりも低い内容にはできません。
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厚生労働省のモデル就業規則とは?
厚生労働省のモデル就業規則は、インターネットで無料で見ることのできる、厚生労働省が作成したテンプレートになります。気軽にみることができますが、以下のような点に注意が必要です。大事なのは、あくまで参考程度にして、規定の趣旨を理解した上で、自社に合った規定にすることです。
- 法律以上の規定が混在している
現行の労働法よりも条件が高い規定が混在しています。うっかりこれを規定してしまうと、再度変更することは至難の業です(不利益変更)。よって、中小企業に合っているとは言えない部分もあります。 - 運用で大事な規定が不足している
運用上、押さえておかないと揉める規定と言うのがあります。
この点が抜けているので、補足する必要があります。 - 業界特有の規定はない
業界特有の規定や、条件次第でぜひ入れておきたい規定がありません。例えば、持ち物検査、テレワーク規定、行方不明規定、情報管理規定などです。
第2条 適用範囲
(適用範囲)
第2条 この規則は、 株式会社の労働者に適用する。
2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
従業員の定義をはっきりさせる
この規則では、『労働者』と『パートタイム労働者』の二種類が登場します。
しかし、会社によっては、『嘱託社員』、『フルタイムで働くパート』などの従業員もいます。
まずは、ご自身の会社にはどのような従業員がいるか、洗い出しましょう。そうしないと、ここで言う『労働者』に誰が当てはまるのか曖昧となります。例えば、フルタイムのパート従業員から、「私はこの就業規則が適用される」といった指摘を受けて、払うつもりのない退職金を請求されるようなトラブルになりかねません。
解決策として、以下のような規定を挟み、誤解のないようにしましょう。
(労働者の定義)
この規則において労働者とは、○○であり、パートタイム労働者等、その他の雇用する者は含まない。
*○○には、選考方法、労働条件、業務内容を入れることで、他の雇用形態と区別します。
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第5条 採用時の提出書類
(採用時の提出書類)
第5条 労働者として採用された者は、採用された日から〇週間以内に次の書類を提出しなければならない。
① 住民票記載事項証明書
② 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
③ 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。)
④ その他会社が指定するもの
2 前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、速やかに書面で会社に変更事項を届け出なければならない。
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
トラブル防止の提出書類は色々ある
このモデル規則では、提出書類の記載が不十分だと言えるでしょう。その他の提出書類として、代表的なものを以下にまとめました。ただし、何が必要か悩む必要はありません。書類を明記する一方で、最後に「ただし会社が提出しないと判断したら不要」といった規定をつければ、柔軟に対応できるからです。
・入社誓約書(就業規則を守ることの誓約)
・秘密保持誓約書(社内の情報を外部に漏らさない誓約)
・身元保証書(横領や窃盗などの対策)
・年金手帳または基礎年金番号通知書
・源泉徴収票(前職がある方のみ)
・雇用保険被保険者証(前職がある方のみ)
・ マイナンバー情報
・給与振込先の届出
具体的に明記する理由
全て明記した方が良いのか?という質問を受けます。例えば、包括条項(④その他会社が指定するもの)があれば、事足りるのでは?という意見です。回答としては、やはり全て明記するのをおすすめしています。運用時の漏れを減らす意味もあるのですが、大きな理由は、就業規則に記載すると、公式ルールとなるので、提出義務が生まれる、ことです。特に、秘密保持契約や身元保証契約書など、提出を伝えづらかったり、拒否されうる書類に対して有効です。
第9条 休職
(休職)
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤が か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき…〇年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき…必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
休職規定は、特に慎重に考えることをおすすめします。休職が当たり前になってきている中、「これを規定しておけばよかった」という後悔の声も増えてきています。大事なのは、休職は「他社事ではない」という意識をもつことです。
休職は会社命令
まず第1項冒頭の「~休職とする」はお勧めしません。この規定だと、休職理由に該当した瞬間、休職させることが必須になってしまうからです。 病名や療養期間が十分に共有されないまま、いきなり診断書だけが提出されて休職に入られるようなリスクがあります。
しかし会社としては、休職理由を本人から説明してもらい、会社が納得したうえで、休職に入ってもらいたいのが本音でしょう。
それでは、どうすべきなのか?例えば、「~休職を認めることがある」や「~休職を命じることがある」と規定すると良いでしょう。ポイントは、休職は会社が与える権利であり、説明がないまま当然に受けられるものではないという姿勢です。そうすれば、従業員から必要な説明をしてもらうことで、会社も納得した上で、復職までのプロセスを整理できるでしょう。
一方で、闇雲に休職を認めず、欠勤扱いとするのは、よくありません。休職ではなく、欠勤扱いにして懲戒解雇の流れにもっていく会社がどこかにありましたが、裁判ではこれがこれを認められませんでした。
診断書や医師面談のルール化
モデル規則には、「休職までの手続き」規定が記載されておりません。
例えば、「医師の診断書を提出してもらう」、「(必要に応じて)医師と会社で面談の場を設ける」などです。
これらがないと、いざ休職となったときに、本人も会社もどうすれば良いのか戸惑うでしょう。これを明記しておくと、本人も事前に準備してくれやすくなります。
特に、メンタル疾患などは、症状が見えづらく、「えっこの人が?」という場合もあるので、提出を明記しておくことで、不信感なくコミュニケーションを取れるようになります。
休職期間の通算規定を入れる
休職の期間も重要です。例えば、休職から復職後、すぐに再休職となるケースがあります。モデル規則だと、再度、期間いっぱい休職させるような規定になっています。特にメンタル疾患は、復職と休職を繰り返すケースが多いです。「○日以内に再度欠勤、休職した場合は、復職前後の期間を通算する」といった規定を入れるようにしましょう。
復職も会社命令で。復職までのステップを制度化するのも◎
復職も休職と同じように、会社命令で復職とすべきです。復職申請を受けた後、「休職前の仕事をどの程度こなせるのか」、「医師からの診断は問題ないか」といった確認手順を明記しましょう。ポイントは、会社が余裕をもって手順を踏めるよう、復職申請の提出期限を設けることです。また、確認の結果、復職の判断がなされた後も、「時短勤務から始める」「ラッシュアワーを避けて出社してもらう」などの制度もおすすめです。
以上、休職規定は4つのポイントを紹介しました。今回は書けませんでしたが、他に以下のような規定もおすすめです。
・出勤はしているが、明らかにしんどそうで、パフォーマンスが低い場合
・試用期間中の休職
・休職中の過ごし方
・仕事をしない”お試し出社”制度
・休職前とは違う職務での復職(それに伴う賃金減額)
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第22条 勤務間インターバル制度
(勤務間インターバル)
第22条 いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。ただし、災害その他避けることができない場合は、この限りではない。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
安易に制度導入しないこと
勤務間インターバル制度は、2019年4月より、働き方改革の一環で広まりました。
「オフの時間帯をしっかり確保させよう」という趣旨で、義務ではなく努力義務です。
しかし就業規則に規定すると、努力義務ではなく、義務になってしまうため、十分な検討が必要です。
特に、第2項の「~時間は労働したものとみなす」に注意です。
例えば、この規定を就業規則にし、実際は運用できていない会社があるとしましょう。従業員から、「この数年間インターバルをとることなく、残業日の翌朝も出勤していた。規定によると、これは労働したものとみなす時間のはず。でもこの時間に勤務していたのだから、二重で賃金をもらえるはずだ」と言われるリスクがあります。
また、インターバル制度は、残業時間に伴って、翌日の出勤時間を管理しなければいけません。
通常の出勤簿以外に加えて、管理工数がかかってきます。
働きやすさを向上させるなら、この制度以外にも施策はあります。一気に色んな施策を導入することはできませんから、一つずつやっていきましょう。以下、中小企業向けに、比較的手が付けやすく、かつアピールになる方法を紹介します。
- 有給休暇の取得率を上げる
採用ページに“取得率8割以上”の実績を記載できると、求職者にアピールできます。 - 育児休業取得率を上げる
最近のトレンドは男性育休です。上がってきているものの、2023年度の世間の平均取得率が3割です。ここで8割以上が狙えると、「新しい時代にも対応する会社だな」とアピールになりますので、狙い時の施策の一つです。 - 残業削減と向き合っている姿勢
現状の残業時間がどうであろうと、まずは、経営者がこの問題と向き合っていることが大事だと思います。過去の推移や具体的な施策を社内に発信することから始めましょう。
第30条 慶弔休暇
(慶弔休暇)
第30条 労働者が申請した場合は、次のとおり慶弔休暇を与える。
① 本人が結婚したとき…〇日
② 妻が出産したとき …〇日
③ 配偶者、子又は父母が死亡したとき…〇日
④ 兄弟姉妹、祖父母、配偶者の父母又は兄弟姉妹が死亡したとき…〇日
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
従業員への思いとルールを線引きする
慶弔休暇は、従業員満足につながる施策の一つです。昔からよくある休暇制度ですが、近年は個性を打ち出した休暇もあります。例えば、理由を問わない『アニバーサリー休暇』、費用補助をセットにした『自己啓発休暇』などです。
しかし、「せっかく従業員のためを思って規定したのに、トラブルの種になった」といったことがないよう、線引きをきちんとするのが大切です。特に、次の2点に注意しましょう。
①「~労働者が申請した場合」でいいか
「会社が認めたとき」でなく「申請」でいいのか、何日前までに「申請」しないといけないのか、を考える必要があります。
②どこまでを対象とするか
『結婚』や『死亡』については、節目がいくつかあります。『結婚』だと婚約や挙式、『死亡』だと葬式や1回忌などです。それらを全て対象とするのか、するのであれば通算何日を上限とするのか、を検討します。また、何年前のイベントまでを対象にするのかも重要です。稀に数年前の婚約を理由に、休暇を取得する従業員もいます。
慶弔休暇は、年数が経つと誰が何のために作った休暇なのか、分からなくなります。
いつの間にか『従業員への思いやり』から、『従業員の当然の権利』になっていた、ということがないよう、ルールをきちんと定めるのがいいでしょう。
第35条 家族手当 / 第36条 通勤手当 他の規定にも波及するので注意
(家族手当)
第35条 家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対し支給する。
① 18歳未満の子
1人につき 月額〇円
② 65歳以上の父母
1人につき 月額〇円
(通勤手当)
第36条 通勤手当は、月額 円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
趣旨によってはパートにも強制適用される
2020年4月から、『同一労働同一賃金』が義務化されました。これは、基本給だけでなく、手当や福利厚生も含まれます。よって、就業規則で「自社の○○手当は、正社員のみ」だと規定したとしても、パートにも支払う義務がでてくるかもしれません。例えば、通勤手当は、正社員にもアルバイトにも原則支払わなければいけません。一方、住宅手当は、「正社員は転勤による負担があるから、その補償費用」という趣旨であれば、正社員のみ対象でも、問題なかったりします。要は、『同一労働同一賃金』以降、支払う趣旨を明確にすることが求められているわけですね。
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パート・アルバイトの就業規則のポイントとは?同一労働・同一賃金についても社労士が解説。
支給のやり方によっては、割増手当の計算元になる
どんな手当を支給するかは、会社の自由ですが、「対象者一律で同じ金額を支給する」のではなく、「実態に応じた金額を支給する」方法をおすすめします。これは、割増賃金が理由です。
*モデル規定は私のおすすめと同じなので、そのまま使われる方は、読み飛ばしてもらっても構いません。
割増賃金は、労働基準法で厳密にルールが決められてます。中でも注意なのが、「基本給と、一部手当の合計額を割り増す」ことです。この「一部手当」と言うのが、支給方法によって変わる部分です。例えば、『家族手当』『通勤手当』『住宅手当』は、一律同額にすると、計算に含めなくてはいけません。(例:家賃に関係なく、3万円支給、家族が何人だろうと1万円支給 )。逆に実態に応じて金額が変わるのであれば、計算に含めなくてOKです(例:家賃の実費負担額の10%、家族一人につき3千円支給 )。
このルールを押さえていないと、あとで残業未払いと判断されます。繰り返しですが、モデル規定はこの点クリアしているので、問題ありません。
第40条 割増賃金 割増率には注意する
(割増賃金)
第40条 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。
(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。
この場合の1か月は毎月〇日を起算日とする。
① 時間外労働45時間以下…25%
② 時間外労働45時間超~60時間以下…35%
③ 時間外労働60時間超…50%
④ ③の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間…35%
(残り15%の割増賃金は代替休暇に充当する。)
(2)1年間の時間外労働の時間数が360時間を超えた部分については、40%とする。
この場合の1年は毎年〇月〇日を起算日とする。
(3)時間外労働に対する割増賃金の計算において、上記(1)及び(2)のいずれにも該当する時間外労働の時間数については、いずれか高い率で計算することとする。
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
割増率に注意
モデル就業規則では、労働基準法よりも高い割増率になっています。この規定通りにするのではなく、まずは法律通りの水準に留めておくのをおすすめします。後で後悔しても、不利益変更(従業員からみて不利に規定を変更する)は、難しいためです。以下は、法律の水準で修正した規定です。併せて、関連規定の率も修正しておいてください。
① 時間外労働60時間以下・・・25%
② 時間外労働60時間超・・・・・50%
③②の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間・・・25%(残り25%の 割増賃金は代替休暇に充当する。)
また、(2)「1年間の時間外労働の~」も労働基準法で、義務とはなっていない規定です。
規定しなくても法的に問題ありません。
『賃金』は残酷な規定です。誤入力だろうとその数字が絶対だからです。もし裁判で争うことになっても、規定の数字が根拠になります。
「割増率は125%」といったうっかりミスは避けましょう(正しくは「25%」)。
第45条 欠勤等の扱い
(欠勤等の扱い)
第45条 欠勤、遅刻、早退及び私用外出については、基本給から当該日数又は時間分の賃金を控除する。
2 前項の場合、控除すべき賃金の1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。
(1)月給の場合
基本給÷1か月平均所定労働時間数
(1か月平均所定労働時間数は第40条第3項の算式により計算する。)
(2)日給の場合
基本給÷1日の所定労働時間数
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
控除の計算ルールを決める
実は『欠勤控除』には法的ルールはありません。「欠勤分を超えた金額は控除しない」という原則は守りつつ、制度設計をしていきましょう。モデル就業規則では、最も一般的な方法を規定しています。
モデル以外の方法だと、(1)月給の場合だと、基本給÷その月の平均所定労働時間数 などもありえます。
これは2月など、暦日数が少ない月を意識しています。
しかし厳密にすることで、給与計算の手間がかかるのがデメリットです。
よって結局はモデル規定の方法を採用する会社が多いですが、他の選択肢があることも知っておきましょう。
日給月給制であることを明記する
月給制の定義を明確にしましょう。単に『月給制』とするのではなく、『完全月給制』もしくは『日給月給制』どちらなのかを明記しましょう。『完全月給制』は、出勤日数にかかわらず、定額の基本給が支給されます。『日給月給制』は、欠勤した場合に、控除が可能な月給制です。よって、基本は『日給月給制』をとっている会社がほとんどでしょう。ただ、そんな細かい点でトラブルにならないよう、雇用契約書や就業規則など、言葉を統一して運用することをおすすめします。
基本給以外の控除をどうするか
モデル規定で不足しているのが、「各種手当の控除ルール」です。
モデルでは、基本給しか控除しない規定になっています。よくあるのは、従業員の生活に対しての福利厚生費(住宅手当、家族手当)は控除せず、勤務に対しての対価(役職手当、出勤手当)は控除するといった規定です。
第51条 定年等
〔例1〕第51条 労働者の定年は、満70歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
(以下略)
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
現在、70歳までの措置は努力義務にとどまる
モデル就業規則では、4パターンの規定例があります。ただし、4パターンとも、70歳までの措置が規定されていることに注意です。
シニア雇用は、以下の通り3つに分かれますが、ポイントは70歳までの措置は努力義務である点です。これをモデル通りに規定してしまうと、努力義務から義務になってしまいます。
仮にシニアに近い従業員がいた場合、一旦規定してしまうと、変更のハードルが高まります。人事戦略や人件費について、十分検討したうえで、判断しましょう。
- 60歳まで
法的に雇用義務があります。これ未満の定年は認められません。 - 65歳まで
法的に“雇用確保措置”義務があります。以下の3つの内、どの措置をとっても自由です。
①定年の引上げ、②継続雇用制度(嘱託) ③定年廃止 - 70歳まで
法的に“就業確保措置”の努力義務があります。
以下の内、どれをとっても構いませんし、とらなくても罰則等はありません。
① 70歳までの定年引き上げ ② 定年廃止 ③ 70歳までの継続雇用制度の導入 ④創業支援等措置
第52条 退職
(退職)
第52条 前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。
① 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して 日を経過したとき
② 期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき
③ 第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
④ 死亡したとき
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
行方不明規定を入れる
「ずっと無断欠勤をしている社員がいて、こちらから連絡しても、返事がない」、そういったケースがまれにあります。そういった社員を懲戒解雇にしたくても、ハードルが高いので、籍だけ残ったまま、社会保険を払い続けるようなことになりかねません。なぜハードルが高いかというと、解雇は、社員の元へ解雇の意思表示(文書など)が届かないと、成立しないからです。社員が行方不明であれば、法的には公示送達という手しかありませんが、裁判所へ申請する手間が掛かります。よって、行方不明の場合は、自然退職扱いとするのがベターです。しかし自然退職にするには、就業規則に規定があることが条件です。よって、「○日以上欠勤し、連絡が付かないときは自然退職とする」といった規定は入れたほうが良いでしょう。
第67条 懲戒
懲戒の種類)
第67条 会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
① けん責
始末書を提出させて将来を戒める。
② 減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③ 出勤停止
始末書を提出させるほか、 日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
④ 懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。
厚生労働省「モデル就業規則」より抜粋
どんなステップで懲戒がエスカレートしていくか
社員が何度も問題を起こしたケースを想定しましょう。日本の労働法では、一発解雇というのはかなり難しいです。前提として、「社員を更生させるよう、会社が手を尽くす」ことを求められます。よって、何度も繰り返した場合は、懲戒レベルを軽い順に上げ、(望まなくとも)最後は懲戒解雇という、流れを想定して設計します。モデル就業規則では、①けん責②減給③出勤停止④懲戒解雇となっています。 他にも、軽い順に『戒告』→『けん責』→『減給』→『出勤停止』→『降格』→『諭旨解雇』→『懲戒解雇』といった段階があります。
懲戒事由にも気を配る
例えば、懲戒事由の「正当な理由なく」「○日以上」「しばしば」といった言葉は注意が必要です。これらは懲戒処分に対しての反論として使われるためです。たとえば、従業員が10日連続で遅刻をした場合、モデル規則に則って処分を下そうとします。しかし、「10日はしばしばではない」と反論されることもあります。1回の問題であればいいですが、懲戒解雇で労働問題となった際に、この一文がネックになる可能性もあります。ですので、不要な言葉は削除したうえで、懲戒事由を記載しましょう。
また、近年起こりやすい懲戒事由も規定するとよいです。代表的なものとしてSNSの炎上が挙げられるでしょう。 また従業員が意図せずとも、管理不十分で情報漏洩につながった規定もおすすめします。包括条項(その他~に準ずる不都合な行為があったとき。)に頼り過ぎず、具体的な規定をすることで、抑止にもなりますし、懲戒処分の正当性を主張しやすくなります。一方で、包括条項は予期しない場合に備えて入れておきましょう。
懲戒は、本来抑止のために使う規定です。しかし周知ができなければ意味がありません。対策例として、就業規則とは別にルールブックを作成することをおすすめします。ルールブックとは就業規則のポイントをかみ砕いてビジュアルでまとめたものです。こが社労士パートナーズでは、ルールブックの作成も請け負っております。詳細はお問い合わせください。
まとめ
ここ最近の労働法令は、大きく変わってきています。またこれまでは無かった、企業の人材競争にも向き合わなくてはいけません。自社の未来像を想像し、採用や育成までトータルで考えられる企業は、これから優位になっていくでしょう。就業規則をきっかけに、採用や育成、組織作りまでを考えるきっかけとなればと思います。
もし制度設計や就業規則のことでご相談があれば、こが社労士パートナーズのホームページよりお気軽にご連絡ください。経営者が実現したい未来像に合わせた、組織作りをサポートいたします。