【就業規則】代休の設定方法と振替休日との違い|イラストで解説
どうしても休日に出勤させないといけない。そんなときに気になるのが、代休と休日の振替です。就業規則への記載が必要ですが、どう書けば良いのか分からない…という悩みを持つ方は少なくないでしょう。そこで今回は
・代休と休日の振替の違い
・就業規則への記載方法
・運用上の注意点
を解説します。中小企業が押さえたいポイントに絞って、事例とイラストを交えながら解説します。これから詳しく見てみましょう。
この記事の執筆者
古賀 泰成(こが たいせい)
こが社労士パートナーズ
代表社会保険労務士
法政大学 経営学部卒業。
自動車メーカーにて海外拠点での営業・物流管理に7年従事。
その間に社労士資格を取得し、父の社労士事務所に勤めた後に開業。
労務×採用で、小規模事業~中小企業まで支援実績あり。
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代休とは?定義と振替休日の違い
代休と振替休日は、どちらも従業員の休みを確保するための制度ですが、全く異なるルールです。
まず前提となる法定休日を押さえる
まず本題の前に、法定休日とは何か確認しましょう。
- 必ず設定しないといけない休日のこと
- 設定とは就業規則へ記載すること
- 設定がなければ、自動的に暦週*の最後の休日になる
*暦週も、就業規則で設定がなければ、自動で「日曜始まり~土曜終わり」で区切られます。
一方で、法定休日以外の休日を所定休日と言います。『代休』や『休日の振替』が問題になってくるのは、法定休日の日に働いてもらう場合です。
それでは、以上の前提を踏まえて、代休と休日の振替を解説していきます。
代休と休日の振替とは?
- 代休
-
法定休日の出勤日後に、代わりの休みをスケジュールすること。
- 休日の振替
-
法定休日の出勤日前に、代わりの休みをスケジュールすること。
定義だけ追うよりも、具体例を話していった方が分かりやすいでしょう。以下で、どのように確認していけばいいか、説明します。
①法定休日の確認
会社の法定休日を把握してない方は、ご一読ください。把握されてる方は次まで飛ばして構いません。
まず、就業規則を見て、「法定休日をいつに設定したか」を確認します。正社員は土日、アルバイトはシフト制など、人によって違うかもしれません。
仮に「正社員で、法定休日を日曜に設定していた」としましょう。土曜出勤であれば、それは法定休日ではないので、代休の問題は発生しません。一方で、日曜出勤であれば、ここで初めて『代休』や『休日の振替』が問題になってきます。
シフト制アルバイトの場合は、確定シフトを元に、どこが法定休日かを判断します。この際の判断基準にも、就業規則が用いられます。
以下イラストのケースでは、暦週を定義しています(日~土)。また休日はシフト制ですが、前述した通り、法定休日を明記してないので(というより多くのシフト制は明記できませんね)、暦週で一番最後の休日が法定休日になります。つまりイラストでは、金曜日です。
②代休と休日の振替どちらなのか
前述した通り、代休と休日の振替の定義は以下でした。
- 代休
-
法定休日の出勤日後に、代わりの休みをスケジュールすること。
- 休日の振替
-
法定休日の出勤日前に、代わりの休みをスケジュールすること。
ここで再び、日曜が法定休日の場合を例にしてお話ししましょう。
日曜の出勤後、「この前の日曜に出勤したよね?今週どこか代わりに休んで良いよ」といったように、従業員と後日スケジュールすることが代休です。
一方で、日曜の出勤前に、「今度の日曜出勤してほしいんだけど…代わりに明後日休んで良いよ」といったように、従業員と前もってスケジュールすることが休日の振替です。
ポイントは、「スケジュール設定をいつしたのか」です。文章だとわかりづらいので、イラストにしました。まずは代休です。
次に休日の振替です。注意点として、日曜より後に代わりの休みがあったとしても、従業員とのスケジュールは日曜より前にしているので、代休ではなくて、休日の振替です。
二つの違い:割増賃金
これで『代休』と『休日の振替』を少し理解いただけたかと思います。
ただ、もう一つ割増賃金に関連する違いがあります。先ほどの定義に赤字で追記しましたのでご覧ください。
- 代休
-
法定休日だった日に働いてもらった後に、代わりの休みをスケジュールすること。働いてもらった日は、休日労働扱い(休日割増)になる。
- 休日の振替
-
法定休日だった日に働いてもらう前に、代わりの休みをスケジュールすること。働いてもらった日は、平日同様、通常労働扱い(時間外労働割増)になる。
代休の休日割増というのは、3割5分増(35%増)のことですね。一方で、休日の振替は休日割増はありません。ただ、その週の労働時間が40時間を超えてしまった場合は、その分に対して、時間外割増として、2割5分増(25%増)がつきます。これは後で詳しく解説します。
ここで、なぜ休日に働いてもらうのは同じなのに、扱いが違うのか、気になりませんか?これは従業員の立場でイメージしてみると分かりやすいです。代休の場合は、貴重な休日が1日なくなったメンタルで、休日労働をしなければいけません。(この時点では代わりの休みをスケジュールされていませんので)その心理的負荷への対価が休日割増ということです。
一方、休日の振替は、「この休日労働を頑張れば、後で休みがある!」というメンタルです。これには休日割増は発生しません。
このように、同じ休日労働でも、心理的負荷のかかり方は違いますよね。
二つの違い:柔軟さ
上記でご説明した通り、休日割増は、休日勤務の心理的負荷への見返りです。逆に言うと、「休日割増賃金を支払うなら、休日勤務への見返りを果たす」ことになります。
つまり、休日割増賃金を支払う時点で会社は見返りを果たしているのだから、加えて、代休を与えることは必ずしも会社の義務ではありません。従業員も請求する権利はありません。
代休はそもそも義務ではないのですから、取らせ方についても、法的な縛りはないです。会社の就業規則で記載しておけば、「半日単位の代休」であったり、「時間単位の代休」も可能です。また、取らせたいのであれば、「代休を義務化させること」や「期限を定めること」も可能です。
もう一つ大きな違いとして、業務命令のしやすさがあります。従業員によっては、代休は拒否する方がいる一方で、休日の振替は拒否されづらいです。これも心理的負荷が違うからでしょう。
休日の振替は就業規則への記載が必須
一方の休日の振替には、以下の法的な定めがあります。特に注意すべき点は、休日の振替は就業規則の記載がないとできないことです。
休日の振替を行うには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
❶ 就業規則に休日を振り替えることができる旨の規定を設けておくこと
❷ 休日労働の前日までに、あらかじめ振替日を特定すること(スケジューリング)
❸ 4週間を通じ4日以上の休日が確保できるよう振り替えること
就業規則の記載例
就業規則には、代休や振替休日の取り扱いを明確に記載しておくことが重要です。よくあるのが、就業規則にどちらかの記載だけしかないことです。両方書くことで、従業員にも違いを認識してもらいましょう。
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代休の記載例
以下は基本的な規定例です。
ポイントは、「代休は義務ではない」という文言にしておくことです。
第〇条(代休)
会社は、所定外労働をさせたとき、または休日に労働させたときは、代休を与えることができる。
休日の振替の記載例
ポイントは、「振り替えることがある」としておくことです。「〇日以内」とする記載はなくても構いません。
第〇条(休日の振替)
会社が業務上必要だと判断した場合は、休日を〇日以内の他の労働日と振り替えることがある。 前項の休日の振替をする場合は、当該従業員に対し、振替日とともにあらかじめ通知する。
その他重要な規定
代休や休日の振替とは少し外れますが、必ず就業規則に入れて頂きたいのは、「時間外労働」と「休日労働」です。以下は一例ですが、こういった旨の記載がなければ、そもそも従業員に残業義務が発生しません。最近はこれが抜けている会社は多くないですが、一応確認ください。また、36協定の提出もセットで忘れずにお願いします。
第〇条(時間外労働)
業務上必要がある場合には、前条で定める労働時間を超えて労働させることがある。
第〇条(休日労働)
業務上必要がある場合には、前条の休日(第〇条の規定によって振り替えられた休日を含む)に従業員を労働させることができる。
運用上の注意点2つ
ここまでは、基本知識と、就業規則への記載内容を説明しました。ここからは、運用時の注意点を紹介します。
主に給与計算のお話になります。結論としては、代休も休日の振替も、働いてもらった日の近くで取らせるのをおすすめします。
給与計算期間をまたぐ場合
まず、休日の振替ですが、給与計算期間内で完結していれば、通常通りに給与を支払えばよいですね。ここは問題なしかと思います。
代休も、上記で解説した休日割増を支払う以外は、通常通りの給与計算です。
しかし、給与計算期間をまたいでいたらどうでしょうか?
まず休日の振替ですが、厳密にはその期間ごとに計算しないといけません。労働基準法で決まっているためです。しかし、給与計算の手間がかかるといった理由で、「通常通りの支払いをして最後につじつまが合う」ような運用を取っている会社もあります。1日分多く働いているのにもらえない期間があり、トラブルになる可能性もあるので、難しいところです。
代休についても、給与計算期間で、以下のようになってしまいます。給与計算の手間ですね。
できる限り、給与計算期間で収まるよう、調整するのが最も安全かつ手間がかからないでしょう。
1週間をまたぐ場合
労働時間は日に8時間を超えると、残業代として割増賃金を支払うのはご存じだと思います。それともう一つ、上記で軽く述べましたが、1週間に40時間*を超えると、割増賃金を支払わなければいけません。
*一部44時間特例あり
暦週が日曜~土曜の会社で例を見てみましょう。まず、同じ週に休日の振替を取った場合は、問題はないですね。
代休も休日割増を支払う以外は、通常通りの給与計算です。
次が問題です。振替休日を同じ週に取れなかった場合は、「週の40時間を超えてないか」を注意する必要があります。なぜなら、休日が通常の労働日となり、週の労働時間にカウントされてしまうからです。
これが代休の場合は、同じ週に取ったケースと変わらないです。繰り返しになりますが、代休の場合は、休日に出勤した時間は、休日労働として別カウントなので、時間外労働の方は問題になりません。
まとめ
今回は、代休や休日の振替を解説しました。ここ最近の労働法令は、大きく変わってきていますが、ここについては、今後も変わらないかなと思います。
繰り返しですが、就業規則がないと、休日の振替を使えません。直近で使うかは置いておいて、国内で人手不足が進む現在、サービス業や飲食などすべての業界で、就業規則に記載しておいた方が良いでしょう。
もし制度設計や就業規則のことでご相談があれば、こが社労士パートナーズのホームページよりお気軽にご連絡ください。経営者が実現したい未来像に合わせた、組織作りをサポートいたします。