パート・アルバイトの就業規則のポイントとは?同一労働・同一賃金についても社労士が解説。
この記事では、アルバイトやパートの就業規則についての注意点をまとめました。
『同一労働・同一賃金』や『無期転換ルール』など、最新の法令を踏まえ、押さえるべきポイントを解説しました。ぜひ最後までご覧ください。
この記事の執筆者
古賀 泰成(こが たいせい)
こが社労士パートナーズ
代表社会保険労務士
法政大学 経営学部卒業。
自動車メーカーにて海外拠点での営業・物流管理に7年従事。
その間に社労士資格を取得し、父の社労士事務所に勤めた後に開業。
労務×採用で、小規模事業~中小企業まで支援実績あり。
パート・アルバイトとは?
多くの会社で身近な存在の「パート」や「アルバイト」。実は、世間と法律上とでは使われ方に違いがあります。
まずはこれらの定義を整理したうえで、就業規則の話に入っていきましょう。
パートとは?
世間では、主婦の短時間勤務を指すことが多いですが、法的には意味が異なります。
老若男女かかわらず、「通常のフルタイムに比べて短い時間働く従業員」のことです。
part(一部)が語源になっています。
アルバイトとは?
世間では、若者の短時間勤務のことですが、実は法律上では使われません。
就業規則などの法的文書では、読み手が誤解しないよう、『パートタイマー』に統一するのをおすすめします。
アルバイトはドイツ語の”Arbeit(仕事)”が語源で、明治時代から使われる言葉です。
パート・アルバイトは就業規則作成義務の人数に含まれる
会社が就業規則を作成する義務が生じるのは、常時10人以上の労働者を使用している場合です。
この「10人以上」の労働者には、正社員だけでなく、パートやアルバイトも含まれることが法律で定められています。
たとえば、正社員が7人、アルバイトが3人の場合でも、合計で10人以上になり、就業規則の作成義務が生じます。
参考:人数の法的義務について、詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
【就業規則】常時10人以上とは?届出義務が発生するケースと注意点まとめ
パート・アルバイト向けの就業規則は必要なのか
結論から言いますと、必要です。法律上分けることが義務になってはいませんが、ぜひおすすめしたいです。
理由は、雇用形態や労働条件が異なるため、同じ規則の中に盛り込むと混乱が生じるためです。
たまに、一つに盛り込まれている就業規則を見かけますが、各所で「この規定はパートタイマーには適用しない」などの記載を多用する必要があり、その結果、規定が複雑になってしまいます。
必要な理由について、以下で更に詳しく説明しています。
お急ぎの方は、次のセクションまで飛ばしてください。
管理がしやすく、記載ミスを防げる
これが一番大きな理由です。就業規則でもっとも避けるべきなのは、誤解がうまれることです。
例えば、記載誤りや漏れによって、知らない内に、認識のずれが生じることがあります。
例えば、正社員向けの退職金や手当について、アルバイトは除くことを明記できていますでしょうか?
また、労働時間をきちんと分けて記載できてますでしょうか。
他の内容も逐一分けて記載していくのは、手間がかかるだけでなく、ミスや漏れにつながります。
特に助成金の申請や法律改正などの、見直しのタイミングでのミスや漏れが多いので、ぜひ最初から分けるようにしましょう。
従業員側も誤解が生まれない
就業規則を別に管理しておくことで、従業員に対して説明を行う際も簡単です。
特に、中小企業では従業員とのコミュニケーションがトラブル回避の鍵となるため、規則を分けることでスムーズな説明と理解が促進されるでしょう。
この記事もチェック
【就業規則】作成費用について徹底解説!相場・注意点・節約方法まで
パート・アルバイトの雇用上のポイント
就業規則の注意点の前に、パート・アルバイトの雇用上の2つのポイントを知っておきましょう。
①同一労働・同一賃金
最近聞くようになりましたが、いつから始まった制度なのでしょうか?これは、2020年に大企業、2021年に中小含め全ての会社で適用された制度です。就業規則を作成する上で、必ず覚えておきましょう。
一言で表すと、「雇用形態に関係なく、同じ労働には同じ待遇を」と言う意味です。
待遇は、賃金だけでなく、ボーナス、福利厚生、キャリア形成・能力開発など、全てを指していることに注意です。
同一労働・同一賃金は以下の2つに分かれます。
- 均等待遇
責任や業務が全く同じなら、給料や福利厚生など同じ待遇にしなければいけない。 - 均衡待遇
責任や業務に差があれば、その差を超えて、不合理な待遇差をつけてはならない。
つまり…正社員と比べながらパートの待遇を決めないといけない!
そこで気になるのは、「均衡待遇の不合理の基準」ではないでしょうか?
政府のガイドライン(後述)は、きちんと明確なラインがあるわけではありません。
2021年施行の法律なので、現在、裁判例が積み上がっている最中です。
この裁判例によって、更にラインが明確になってくるでしょう。
今はガイドラインと既に出た裁判例によって、ラインを推察していく必要があります。
②無期転換ルール
パートの多くを占める有期雇用についてです。
雇用契約期間が1年であったり、期限が決まっていても、通算契約期間が5年を超えたとき、無期雇用へ転換しなければいけません。ただし、パート本人が希望した場合のみです。
正社員の就業規則との違い
ここでは、パートやアルバイト向けの就業規則が、正社員の就業規則とどこが違うのか、解説します。
参考:就業規則の基本を知りたい方は以下をご覧ください。
就業規則の記載事項を完全ガイド|絶対的記載事項とは?
正社員の就業規則との違いまとめ
正社員の就業規則と、パート・アルバイトの就業規則で、どんな規定が違ってくるのでしょうか。
個々の規定に入る前に、以下のまとめで、俯瞰してみましょう。
ただここでも、思い出して頂きたいのは『同一労働・同一賃金』です。
太字の部分について、正社員と違う規定にできるのは「合理的な待遇差である限り」であること、非常に要注意です。
また、『無期転換ルール』に関連し、無期転換後の規定をどうするか、も検討すべきです。
・法律上の休暇(有給など)
・退職(定年など)
・安全及び衛生
・災害補償および業務外の傷病扶助
・表彰および制裁
・服務規律
・福利厚生施設(更衣室、食堂)
・従業員負担の仕事道具
要確認
・無期転換後の規定
・就業日と就業時間
・人事異動
・従業員負担の仕事道具
・基本給
・各種手当、賞与、退職金
・会社独自の休暇、休職
・職業訓練
*「違う可能性」という表現にしたのは、個別事情で変動するためです。
次に、「正社員と違う可能性 高」と「要確認」の内容について、細かく見ていきます。
就業日と就業時間
パートは、週の勤務時間が短く、シフト制であることが一般的です。
よって、正社員の様にあらかじめ就業規則に書くことは無理でしょう。
そこで、原則的な始業・終業時間を記載しつつ、「具体的にはシフトで個別に定める」旨を明記しましょう。
ただしここで1点注意です。
シフト制だけでなく「1ヵ月の変形労働時間」を併用する場合は、全てのシフトパターンを記載しないといけません。
*「シフト制」と「1ヵ月の変形労働時間」は、よく一緒に併用されますが、違う制度であることにも注意です。
人事異動
パートは、前提として、正社員のように人事異動は行わないでしょう。
しかし、正社員に適用される以下のような規定が、パートにも適用されるかのような文言になっていないか、チェックしてください。
(人事異動)
会社は、業務上必要がある場合、従業員に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
これがあると、『同一労働・同一賃金』により、「正社員もパートも、将来の配置転換の可能性は同じ」と見なされ、パートの待遇を正社員に更に近づける義務が発生しかねません。
これ以降は、同一労働・同一賃金を意識する項目なので、要注意です。
基本給
パートの基本給は、一般的に時給制が採用されます。一方、正社員は日給月給制であることが多いでしょう。
基本給も人によって違うので、「基本給は時間給とし、職務内容等を勘案し、各人ごとに個別の雇用契約で定める。」といった旨を明記しましょう。
また正社員と同じ働き方、責任範囲のパートがいたら要注意です。
その場合、「同一労働・同一賃金」の観点から、正社員(時給へ換算)と比べて、明らかに低い基本給とならないように、賃金を設定しましょう。
各種手当・賞与・退職金
各種手当・賞与・退職金は、正社員とパートとで、規定が違う可能性が高いでしょう。
たとえば正社員には、住宅手当や家族手当などの各種手当が支給されることがあります。
しかし、アルバイトやパートには必ずしも支給されるわけではありません。
ここで大事なのは、以下の2点です。
- 支給目的を言語化しておく
- 支給目的に照らしつつ、差が不合理でないかを確認する
例えば、住宅手当の場合ですと以下のようですと、待遇が違っても問題ないでしょう。
①正社員は、転勤での引っ越しなどがあり、パートと比較して住宅費用が多額となるから
②正社員は”数万円を支給”、パートは”支給なし”だが、実際に正社員は転勤経験のある社員が多く、数万円の差は不合理とは言えない。
逆の例だと、令和2年の日本郵便事件*では、住宅手当について、①目的は言語化されていても、②転勤のない一般職社員に手当を支給していたことで、「不合理な待遇差」だと判決を受けてしまいました。
*「令和2年10月15日 最高裁判所第一小法廷判決・令和元年(受)第777号,第778号,第794号,第795号 地位確認等請求事件」
特に不合理だと言われやすいのは、通勤手当です。
通勤手当の目的は「会社に来てもらうため」です。来てもらうのは正社員もパートも変わらないため、差をつけるのは不合理と言えるでしょう。
その他、政府が出しているガイドラインは以下になります。これに沿った規定をするのをおすすめします。
退職金については、ガイドラインに明記はありませんが、考え方はその他と同じでしょう。
手当の種類 | ガイドライン内容 |
---|---|
賞与 | 会社の業績等への貢献度が同じであれば同一の支給をすべき。 差異がある場合は貢献度に応じて。 |
役職手当 | 同じ職務・役職で、差をつけるのはNG。 |
精皆勤手当 | 業務内容が同ーであれば同一の支給をすべき。 |
時間外労働手当 | 同一の時間外労働を行った場合、同一の割増率。 |
通勤手当・出張旅費 | 前提条件無く、同一の支給をすべき。 |
単身赴任手当 | 同一の支給要件を満たすのであれば同一の支給をすべき。 |
特殊業務手当 | 同一業務に当たるのであれば同一の支給をすべき。 |
同一労働・同一賃金を知って、不安に思われた方もいるかもしれません。
しかし、すべての待遇を同一レベルまで上げるケースはあまりないでしょう。気になる方は、お気軽にご連絡頂ければと思います。
会社独自の休暇、休職
正社員には、会社独自の休暇制度や休職制度が設けられることがあります。
これらについて、パートの場合はいかがでしょうか?ここでもガイドラインを見ていきましょう。
種類 | ガイドライン内容 |
---|---|
慶弔休暇 | ・出勤日が正社員と同一であれば、同一日数を付与すべき。 ・出勤日が短ければ(週2日など)、勤務日の振替での対応を基本としつつ、 振替が困難な場合のみ慶弔休暇を与えても問題ない。 |
リフレッシュ休暇など 勤続期間に応じた休暇 | パートも、通算期間に応じて取得をさせることを要する |
病気休職 | 無期契約のパートの場合は正社員と同等、 有期契約のパートの場合はその期間に応じて取得させるべき。 |
休暇や福利厚生についても、『同一労働・同一賃金』の基本的考え方は変わりません。
職業訓練(教育訓練)
職業訓練は、スキル向上や資格取得のための教育のことです。
こちらも、前述までと同じく、不合理な待遇差(教育の回数など)は認められません。
ただ、教育は業務内容に直結するので、福利厚生よりも分かりやすいのではないでしょうか。
例えば、正社員に対してだけ、「マネジメント講習」を行ったりすることは問題ないでしょう。
無期転換後の規定
前述でご説明しました通り、有期契約のアルバイトやパートが通算で5年以上勤務した場合、無期労働契約への転換を申し込む権利が発生します。
就業規則で押さえておきたいのは、この無期転換後の労働条件です。
これを有期パートと同じにするのか、無期転換で一部変更するのか、検討しなくてはいけません。
例えば、「無期契約のパートには、いつか配置転換してもらうかも」といった考えがあれば、パート・アルバイト向けの就業規則と一部変更しなければいけません。
そうしないと、「無期パートは、有期パートと同じ規約」=「配置転換は規約に無い」=「規約に無いので命令に従わなくてよい」といったことが発生します。
もちろん、無期転換ルールの適用を免れるために、無期契約を有期よりも著しく不利にすることはNGです。
(番外)正社員向けの規則には、「別途定める」旨を忘れずに
正社員向けの就業規則に忘れずに書いてほしい文言があります。
それは、適用範囲に「パートタイム労働者については別に定める」という記載です。
当たり前と思うかもしれませんが、忘れてしまうと、法的には「パートタイム労働者の就業規則が2つある」ような状態になります。以下のような規定で、これを防止しましょう。
(適用範囲)
第2条 この規則は、 株式会社の労働者に適用する。
2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。
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まとめ
パート・アルバイト用の就業規則について、要点をご紹介しました。
また、『同一労働・同一賃金』『無期転換ルール』についても触れました。
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