社労士が徹底解説:就業規則での有給休暇の注意点

この記事の執筆者

古賀 泰成(こが たいせい)
こが社労士パートナーズ 代表


法政大学経営学部卒業。自動車メーカーにて10年近く勤務した後、社労士試験合格。
社労士事務所勤務後、こが社労士パートナーズを設立。
オンラインを活用しながら、クイックレスポンスかつ丁寧な対応を心がける。
組織作りに強く、また採用やITを駆使して、小規模事業~中小企業まで実績あり。
「就業規則を組織作りのきっかけとしたい」と考え、情報発信と顧客提案を大事にする。

目次

就業規則における有給休暇の重要性

会社を運営する上で、就業規則は労使の関係を円滑に保つための重要なルールブックです。
その中でも頻繁に登場するルールとして、有給休暇が挙げられます。
しかし、その取得に関する具体的な運用ルールを適切に定めていないと、労務トラブルに発展する可能性があります。

そのため、就業規則における有給休暇の取り扱いは、従業員のモチベーションや会社のコンプライアンスに直結する極めて重要だといえます。

就業規則に有給休暇を明記する理由

有給休暇は労働基準法第39条によって規定されており、規模に関わらず、すべての会社はこの法律に準じて有給休暇を付与しなければなりません。しかし、法律に従って有給休暇を付与しているだけでは不十分です。従業員数が10人以上の企業では、労働基準法に基づいて就業規則を作成し、その中に有給休暇に関する具体的な規定を盛り込むことが義務付けられています。

就業規則に有給休暇のルールを記載する際には、以下のような内容が求められます:

  • 有給休暇の付与条件(勤続年数や所定労働日数に基づく)
  • 取得の手続き(申請方法やタイミング)
  • 時季指定のルール(会社側が取得時期を指定する場合の条件)
  • 繰越に関する規定(翌年に繰り越せる日数や期間)

これらの情報を就業規則に明記しておくことで、従業員は安心して有給休暇を取得でき、会社側も一貫したルールで対応できるため、無用なトラブルを防ぐことができます。

有給休暇に関する最新法改正とその影響

特に2019年の法改正では、年5日の有給休暇取得義務化が導入され、すべての従業員が必ず年5日以上の有給休暇を取得するよう企業に義務付けられました。もしこの義務を守らない場合、企業は罰則を受ける可能性があるため、企業としてはしっかりと対応する必要があります。

事業主としては、就業規則における有給休暇の規定が最新の労働法に準拠しているか定期的に確認し、必要に応じて専門家に相談することが望ましいでしょう。

こが社労士パートナーズ代表 古賀

この記事の更新時点では、直近の有給休暇の法改正は予定されてません。
ですので、ご自身の有給休暇規定が2019年法改正に対応しているかどうかをチェックすればよいでしょう。

年次有給休暇の基礎知識

有給休暇の発生条件と付与日数

ここでは、有給休暇の発生条件や、正社員とパート・アルバイトでの付与日数の違いについて詳しく解説します。

まず、有給休暇の発生条件について見ていきましょう。有給休暇が発生するためには、以下の両方を満たす必要があります。

  • 勤続6ヶ月以上である
  • 所定労働日数の8割以上出勤している

この条件を満たした従業員は、原則として、10日間の有給休暇が付与されます。ただし、勤続年数が長くなるほど付与される日数は増加し、最大で20日間の有給休暇が付与されるようになります。

「原則として、10日間」といいましたが、これは正社員の話です。一般的に、正社員は所定労働日数や勤務時間がフルタイムであるため、原則通りに有給休暇が与えられます。
一方で、パートやアルバイトの労働者の場合、労働日数や時間が少ないことが多いので、それに応じた日数が付与されます(比例付与)。
具体的には、以下のように法律で定められています。

週所定
労働
日数
1年間の
所定労働日数
勤務期間
6カ月1年6カ月2年6カ月3年6カ月4年6カ月5年6カ月6年6カ月
5日217日~10日11日12日14日16日18日20日
4日169~ 216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121~ 168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73~ 120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48~72日1日2日2日2日3日3日3日
こが社労士パートナーズ代表 古賀

例えば週2勤務で6か月勤務したアルバイトは、年3日の有給休暇の権利があります。ただ取得 ”義務”の対象者は限られます(以下で解説)。

有給休暇取得の義務化とは?

2019年の法改正以降、有給休暇が10日以上付与される従業員に対しては、5日以上取得させる義務が事業主に課せられました。

つまり、従業員全員ではなく、主に正社員(+一部パート)が義務の対象者になります。
具体的には、以下の表の内、チェックがついている人が対象です。

週所定
労働
日数
1年間の
所定労働日数
勤務期間
6カ月1年6カ月2年6カ月3年6カ月4年6カ月5年6カ月6年6カ月
5日217日~10日11日12日14日16日18日20日
4日169~ 216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121~ 168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73~ 120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48~72日1日2日2日2日3日3日3日

また、この義務を怠った場合、事業主には罰則が科される可能性もあります。具体的には、30万円以下の罰金が科されることがあるため、会社として必ず対応が必要です。さらに、従業員の有給休暇の管理を怠ると、法的なリスクだけでなく、従業員の満足度やエンゲージメントの低下にもつながる可能性があるため、適切な管理が重要です。

有給休暇をとりまく制度(法的義務のあるもの)

有給休暇の取得については、柔軟な運用ルールがいくつかあります。
これらが制度全体をややこしくさせてるとも言えますが、就業規則に適切に反映させて、対応できるようにすることが大切です。ポイントは、法的に運用義務のあるルールと、義務ではなく任意に運用できるルールがあることです。
まずは、法的義務のあるものをみていきましょう。

従業員の時期指定権・会社の時季変更権

有給休暇を取得する際、基本的には従業員が自由に取得の時期を指定する権利時期指定権)を持っています。ただし、業務に大きな影響が出る場合には、会社がその時期を変更する権利時季変更権)を行使することができます。例えば、繁忙期に多くの従業員が同時に休暇を申請した場合、会社はこの権利を使って休暇の時期を調整することができます。しかし、この変更権の行使はあくまで業務に大きな支障が出る場合に限られるため、慎重に判断する必要があります。

会社の時期指定

従業員からの時期指定権がある一方で、”会社”からの時期指定もあります。

しかし従業員は”権利”でしたが、こちらの意味合いは違っていて、先ほど述べた、”取得させる義務”のことです。
「従業員が自分で指定して取らない場合は、代わりに時期を指定する必要があるよ」ということですね。
こちらは、取得義務のある5日について指定ができます。

計画的付与

会社があらかじめ有給休暇の取得日を計画的に決める制度です。
例えば、年末年始やお盆期間中に一斉に有給休暇を取得させることで、業務効率を保ちながら従業員にも休暇を付与することができます。

イラストを見ると、先ほど説明した「会社の時期指定」と似ています。
しかし、先ほどは取得義務日数である5日間が対象でした。一方このイラストでは7日(5日を超えた日数全部)が対象です。「5日分は原則として従業員に自由に取得させないといけないけど、それを超えた分は会社側で計画立てて良いよ」ということです。

ただしこの制度導入する際は、労使協定の締結が必要です

有給休暇をとりまく制度(法的義務のないもの)

次に法的義務がなく、会社が任意で定めることのできる制度を見ていきます。注意点として、この制度を従業員全員に対して導入する場合、就業規則へ記載しなければいけません。

参考:なぜ記載が必要かは、以下ページの「相対的記載事項」をご覧ください。
就業規則の記載事項を完全ガイド|絶対的記載事項とは?

半日単位での取得

有給休暇は、基本的には1日単位で取得するものですが、労働基準法では半日単位での取得も認められています。これにより、例えば、午前中だけ仕事をして午後は休むといった柔軟な働き方が可能となります。この制度を導入することで、従業員のニーズに応えやすくなり、有給休暇の取得率向上にもつながります。

時間単位での取得

さらに柔軟な制度として、時間単位での有給休暇取得もあります。これは、1時間ごとに有給休暇を取得できる制度で、特に短時間の用事家族の予定に合わせての休暇取得が必要な場合に便利です。この制度は労働基準法上では義務ではありませんが、導入すれば、従業員にとってより働きやすい環境を提供できます。

また、時間単位年休として充てられるのは、5日分のみになります。

記載例:就業規則における具体的規定

ここまでで、有給休暇の基本的なポイントを押さえました。
ここからは、就業規則における有給休暇の具体的な記載例を紹介します。

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正社員への規定

会社は毎年、〇月〇日を付与日とし、次の表の勤続年数区分の出勤率が8割を超える従業員に、下欄に掲げる日数の年次有給休暇を与える。

勤続年数6ヵ月1年 6ヵ月2年 6ヵ月3年 6ヵ月4年 6ヵ月5年 6ヵ月6年 6ヵ月以上 
年休日数10日11日12日14日16日18日20日

付与日について「〇月〇日」としています。上記では、「6か月継続勤務」かつ「8割出勤」を満たしたタイミングで付与されると説明しました。しかし、中途入社を想定した場合は、これだとバラバラに付与され管理が大変になります。そこで、斉一的取扱いと言って、全員同じ日に付与することが認められています。ただし、斉一的取扱いを採用する際は、「6か月継続勤務」を満たしてなくても、その前に付与させないといけません。また斉一的取扱いに似てますが、一部の日数だけを事前に付与する分割付与もあります。

  2  年次有給休暇は、従業員が請求した時季に与える。ただし、事業の正常な運営を妨げるためやむを得ない場合は他の時季に変更することがある。

上記で説明した「従業員の時期指定権・会社の時季変更権」を明記しています。

3 第1項又は第2項の年次有給休暇が 10 日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による
年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。

上記で説明した「会社の時期指定」を明記しています。

4 前項にかかわらず、従業員代表との書面協定により、各従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日を越える部分について、あらかじめ時季を指定して与えることがある。

上記で説明した「計画的付与」を明記しています。

5 従業員が年次有給休暇を取得する場合は、原則として取得する〇日前までに届出を行い、会社の承認を得なければならない。ただし、やむを得ない理由で事前に届出を行えなかった場合は、会社が認めた場合のみ許可する。

有給の取得ルールです。理不尽に早いタイミングでの届出(1ヵ月前など)は認められません。

6 付与日から1年以内に取得しなかった年次有給休暇は、付与日から2年以内に限り繰り越して取得することができる。

有給は2年の時効があるので、繰り越さないといった規定は、法律で認められません。

7 前項について、繰り越された年次有給休暇とその後付与された年次有給休暇のいずれも取得できる場合には、繰り越された年次有給休暇から取得させる。

繰り越された方(先に時効消滅する方)から消化する規定です。
これは、法的にこれといった定めはないですが、多くの会社がこの規定です。

アルバイトなど短時間社員への規定

前項の規定にかかわらず、週所定労働時間30時間未満であり、かつ、週所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数を定める労働者については年間所定労働日数が216日以下)の労働者に対しては、下の表のとおり所定労働日数及び勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。

週所定
労働
日数
1年間の
所定労働日数
勤務期間
6カ月1年6カ月2年6カ月3年6カ月4年6カ月5年6カ月6年6カ月
4日169~ 216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121~ 168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73~ 120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48~72日1日2日2日2日3日3日3日

上記で説明した通り、ここは法的に決まっているので、あまりアレンジはできないでしょう。

   

半日単位の年休

 年次有給休暇は、原則として1日単位で取得することとするが、従業員が希望する場合は半日単位で取得することができる。半日単位の年次有給休暇の始業時間、終業時間は、以下のどちらかとする。
午前休:8時〜12時(年次有給休暇部分:13時〜17時)
午後休:13時〜17時(年次有給休暇部分:8時〜12時)

上記で説明した半日休暇の部分です。

時間単位の年休

 従業員代表との書面協定により、前条の年次有給休暇の日数のうち1年について5日の範囲内で次により時間単位の年次有給休暇 (以下「時間単位年休」という。)を付与する。

2 時間単位年休付与の対象者は、従業員代表との書面協定による。

3 時間単位年休を取得する場合の、1日の年次有給休暇に相当する時間数は、以下のとおりとする。

所定労働時間が5時間を超え6時間以下の者・・・6時間
所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者・・・8時間

4 時間単位年休は1時間単位で付与する。

5 時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に 取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。

6 上記以外の事項については、前条の年次有給休暇と同様とする。

上記で説明した半日休暇の部分です。
3で述べた1日の時間数は、1時間に満たない場合は、切り上げて計算します。

有給休暇の実務対応

退職予定者と有給休暇の扱い

退職予定者がいる場合、残りの有給休暇の消化についてはどうすれば良いのでしょうか?
最近は、退職前に有給休暇を全て消化することも珍しくないので、これに対応するために、就業規則に明確な取り決めをしておくことが重要です。

労働基準法では、有給休暇は労働者の権利とされており、退職時にも消化できる権利があるとされています。そのため、従業員が有給休暇の取得を希望した場合、事業主がこれを拒否することは原則としてできません。ただし、業務に著しく支障が出る場合には、事業主には「時季変更権」が認められており、退職予定日までに業務に支障が出ない形で有給休暇を取得させることが求められます。

例えば、引継ぎをせずに有給休暇に入らないようにあらかじめ規定をしておく必要があります。

一方で、退職時に有給休暇を消化できない場合には、未消化分の買い上げが行われることもあります。ただし、注意点として、有給休暇の買い上げは原則禁止されています。例外的に、退職時に未消化となった有給休暇のみが買い上げの対象となるため、退職間際の消化規定はこの点も併せて押さえておく必要があります。

ワーク・ライフ・バランス向上と有給休暇取得率

今は人材の獲得競争の時代ですから、ワークライフバランスは大事な指標となっています。
特に、有給休暇の取得率は、求人サイトでのアピールであったり、社内周知をすることでのエンゲージメント向上につながります。
取得率の目標を立て、振り返りをしている会社もあります。他にも、半日単位や時間単位の有給取得の整備を進めていくのも良いでしょう。ただこれらは人件費に直結するので、いきなりの導入はおすすめしません。しかし中長期的には、徐々に整備を進める会社と、そうでない会社とで整備に差が出てくるでしょう。事業と同じで、ノルマがないと働きやすさは前に進みませんので、まずは計画を立てることをおすすめします。

こが社労士パートナーズ代表 古賀

なかなか一人で進めるのは難しいのではないでしょうか。そんなときは、専門家と一緒に進めることで、信頼性と実現性のある計画が立てられるでしょう。こが社労士パートナーズでは、人件費の計算や整備計画の立案も行っています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

まとめ

ここまで、有給休暇の基本知識から、就業規則の書き方等についてご説明しました。

就業規則の改定は、特に法改正が頻繁に行われる昨今、専門家のサポートを受けることもよいでしょう。

社労士に相談するメリット

  1. トラブルのリスク回避
    適切な就業規則が整備されていない場合、労働基準監督署からの指導や、労務トラブルのリスクがあります。早めに社労士に相談すれば、未然に防げるトラブルもございます
  2. 人材獲得の基礎を固められる
    現在は、労働法に則っているだけでは、人材が採用できない時代です。環境整備のロードマップを作成し、実践していく必要があります。また魅力が伝わるようなアピールを社内外へしなければいけません。
    これらを両方できる専門家へ相談することで、最短距離で採用に強い会社を目指すことができます。

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